何度も小欄でNHKが各時代の各国旗についてミスを犯してきたことを紹介してきました。大好評の「あまちゃん」の最終回でも旧ソ連国旗が出てくるという変なことがありましたし、ケネディ大統領の関連番組でも予告編で「星条旗」の掲げ方がおかしく、古くらの友人であるA局長に注意して、本放送ではうまくトラブル回避をしていました。
そのせいでしょうか、最近は、頻繁に問い合わせてくるようになりました。別に私の手柄話や自慢話をするつもりはありませんが、国旗でミスは許されませんので、これからも必要な協力はするし、批判も躊躇なくします。専門家の知見は(無償で)大いに活用してください。
ちなみに12月15日の大河ドラマ「八重の桜」最終回では1895年、下関条約への露、独、仏による「三国干渉」の場面で使う国旗について事前に担当者が来訪して帰り、見事に正しい国旗がオンエアされていました。
さて、次は3月31日から半年間続く連続テレビ小説「花子とアン」の担当者(堀内裕介助監督)からの問い合わせです。この番組は『赤毛のアン』の翻訳者として著名な村岡花子先生(1893〜1968)の、明治、大正、昭和3代にわたる活躍を原案にシナリオを虚実入り混ぜて描いたもの(原案:村岡恵理=花子先生の孫、脚本:中園ミホ)で、主演は吉高由里子という若い女優さんですが、美輪明宏さんがナレーターを務めるというのですから期待できます。
私が「村岡先生」といい、「美輪さん」というのは、わが恩師・橋本祐子先生と村岡先生が昵懇で、私も1、2度お目にかかったことがある大先生ですし、美輪さんとは年も近いし、難民を助ける会のチャリティ・リサイタルで特段のご協力をいただき、前後何度か口をきいたことがあるので、つい(勝手に)親しみを感じるからなのです。
その村岡先生が甲府から東京の東洋英和女学院に勉学に来られ、ブラックモア宣教師の指導を受けられたのは事実です。
NHKからの問い合わせは「1903,08,09年の英和の場面で当時のカナダの国旗を放映したいが、どのデザインの国旗にすべきか」でした。私自身、東洋英和の大学院で約10年間教えていましたし、今述べたような御縁もありますで、昨年12月、胆石の摘出手術などで病床に伏す身ではありましたが、真剣に調べようとしました。
内外の研究者にメールしたりして情報収集に努めましたが、折よく、教え子で(というより当時から仲間のような存在)菅原恵理子東大講師から「飲み会」へのお誘い電話があり、この身では参加は無理だとお断りしつつ、いただいた電話で頼みごとをすという「教師の特権」を利用して、少々ずるいですが、即、本件の調査をお願いしました。
さすがに伝統校はすばらしいし、幼稚園から大学院まで全部英和という(おそらく)空前絶後の菅原さんの信用からでしょうね、東洋英和女学院史料室の酒井ふみよ先生から早速、証拠写真とともに返事が来ました。
1934(昭和9)年に行われた東洋英和女学校創立50周年記念式典における、同女学校マーガレット・クレイグ記念講堂の壇上に飾られた国旗
東洋英和女学校創立50周年記念の式典が1934年に行われたとき、マーガレット・クレイグ記念講堂の壇上に飾られたのは、日章旗と英国国旗の「ユニオン・ジャック」でした。
当時のカナダは英国連邦の一員だったのでこの国旗が掲げられた、という風に伝えられています。
この式典にはカナダの公使マーラー氏も出席され、祝辞を述べられています。ですから、「花子とアン」の英和でのシーンに使われるのでしたら、「ユニオン・ジャック」が適当と考えられます。 吹浦先生によろしくお伝えください。
そこで早速、NHKに添付していただいた写真ともども転送し、その他の情報からも「ユニオン・ジャック」を掲示ないし掲揚するのが正しいとお伝えしました。しかし、きっと私の伝え方が不十分だったのでしょう。担当のこの若い助監督は納得できないようで「上の人に報告したら…」とグズグズいうのです。「どんなに偉い人か知らないが、その<上の人>とやらに、国旗のことは重要なんだから、私に直接電話してくるように」と言って、わが身をいたわり電話を切らせてもらいました。
1868年(といえば明治維新の年)までカナダでは英国旗をそのまま掲揚していた。
その後も大英帝国のDominionの1つとして、英国系の人は当然のようにこの「ユニオン・ジャック」を国旗として使用していた。
1868~1921年までのカナダの旗。但し、あまりに複雑なデザインであることから、多数を占める英国系の国民も使用せず、オリンピックでも使用されたことはない。
紋章はカナダを構成する各州の紋章を合体したもの。
1921~57年までのカナダの国旗。紋章は、イングランド、スコットランド、アイルランド、フランスの紋章にカナダの象徴であるカエデの葉を合わせたもの。開拓時代、食べ物がない冬季に、先住民から知恵を得てサトウカエデの樹液をすすって凌いだという暮らしを象徴している。
1957~65年まで、つまり1964年の東京オリンピックでも掲揚したカナダの国旗。
今ではカナダの国内で「ユニオン・ジャック(ユニオン・フラッグ)」が掲揚されるのは、カナダの国旗としてではなく、別の国家としての英国旗としてです。また、カナダが英連邦の構成員であり、エリザベス女王を国家元首としていることを特に示す場合も英国旗を自国旗同様に掲揚することがあります。しかし、20世紀の冒頭は間違いなく、「ユニオン・ジャック」をそのまま使用していました。ちなみに、太平洋戦争(大東亜戦争)でカナダの将兵は開戦直後、香港で日本軍と戦い善戦して降伏しましたが、その時も英国軍の一員としてのカナダ軍であり、「ユニオン・ジャック」の下での戦闘でした。
どうやら最後にわかっていただいたようですが、「いじわるじいさん」としては来年4月の第2週から、「花子とアン」の番組で「カナダの国旗」が何度か出てくるそうですから、「上の人」がどう判断するのか、こわごわ楽しんでいます。