プーチン氏(現首相、次期大統領最有力候補者)
今、ベストセラーになりかけている五木寛之さんの『下山の思想』を、秋田への往復の新幹線で読みました。さまざまな懐かしさの描写と肩に力を入れないで緩やかな舵取りをしようという思いを綴った共感できるところの多い新書です。
その中に、加藤登紀子さんとの共通点について触れたところがあり、加藤さんはハルピンで五木さんは平壌で(とともに日本の本土以外のところで)終戦を迎え、同じ1966年に加藤さんは「赤い風船」でレコード大賞新人賞を、五木さんは『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞を受けてデビューしたとあるのです。
「青い風船」はリトアニアでカラス除けに効果ありとか、そして「白い風船」は亀田製菓のお菓子(煎餅で包んだ白いクリームチーズが最高!)などとあらぬことを思い浮かべつつ、風船とモスクワ、私の連想はつながりました。2月26日、モスクワのみならず、ロシア全土でどれだけ白い風船が街頭に並ぶか、注目されていることです。選挙の不正を糺し、3月4日の大統領選挙でプーチンに一矢報いようという人たちが、また、白い風船を掲げてデモをするからです。
ロシアという国は、法とか正義とか、公平とか清潔といった社会的価値を、古来、どの程度社会規範としてきたものだろうかと、私は時々、考え込んでしまうことがあります。
最近でも、大統領選の公正な実施や民主化を訴え、12月24日にまず「ソ連崩壊後最大規模」とされたデモが発生、次いで、白い風船を付けた「自動車デモが1月29日、モスクワ市街のサドーボエ環状通り道路で開催されました。この環状通りは東京で言えば明治通りあたりに相当する主要な街路です。もっとも道幅は東京の2倍を超しています。
白い風船を付けた「自動車デモ」(1月29日、モスクワのサドーボエ環状道路で)
昨年12月の国家院(下院)選での不正疑惑に対する抗議集会以来、白は公正選挙要求のシンボルカラーとなりました。白のリボンや風船などをマイカーに付け、クラクションを鳴らすなどして約2時間、29日の自動車デモでは、この環状線を走行した。その数?
警察は発表で約300台と発表したが、主催者は千~数千台と主張しました。
2月4日、今度は国内の各都市で同じ趣旨の大規模な集会が開かれました。参加者は白い風船を掲げつつ、プーチン首相(59)の大統領返り咲き阻止を訴えました。
モスクワでは、気温がマイナス20度近くでした。12月24日を上回る約3万6千人(警察発表)が参加。主催者側は12万人以上と発表しました。参加者はクレムリン近くのボロトナヤ広場で集会を開き、下院選の結果の見直し、チューロフ中央選管委員長の解任など五項目の要求を採択しました。主催者側は次の集会を大統領選直前の2月26日に開くと発表しています。
2月4日、ボロトナヤ広場に向かう人々
しかし、3月4日に投票が行われる大統領選で、プーチン氏が優位であることは変わっていません。さまざまな調査によれば、ロシア人特有のというべきか、強い者への憧れと畏敬の念が、今のところプーチン不支持の声を上回っているのです。また、1990年代の苦しい生活や経済的混乱の再来を嫌うことから、それを結果的に乗り切ったプーチン氏を、以前ほどではないにしても、支持する声が強いことも確かです。
ただ、反プーチンを唱える人たちには「メドヴェージェフ氏とのタンデム(双頭)体制として政権を私物化し、たらいまわしをすることは許せない。だからといってプーチン氏に勝てる共通の支持者はいない。ならば、それぞれが支持する野党候補に票を入れることで票が分散しようとも、プーチン氏を3月25日の決選投票へ引きずり出せば、たとえ再びプーチン氏が大統領になったとしても、意味合いが違う」という共通した意見に立ち、運動の拡大を図っているようです。
ロシアの国旗は白青赤の横三色旗。白が一番上なのに、この国は史上、清潔さ、公正さということで評価されたことはありません。しかし、それでもなお、清潔や公正といった理想を追おうとする人たちがいることを評価し、真の民主主義がこの国に根差すことを期待したいものです。