「赤いケシ」は何のしるし?

毎朝、NHK・BSで世界の放送を見るのが日課になっている。友人の奥様が同時通訳を担当しておられることもあるが、各国の状況が直接、映像で見られるということは、曲がりなりにも国際関係をまなんでいる者として、大いに参考になる。また、毎朝、どこかの国の国旗が出ない日はないというほど、各国で国旗が「大活躍」している様子も解る。

11月に入って目立った映像は、イギリスやフランスの政治家がそろって胸に赤いケシの大きなマークを付けていることだ。昨日、愛知県一宮市の読者の方がお越しくださり、この赤いケシについて質問された。

そこで、クイズ。このマークは何を意味しているのでしょう?
①麻薬撲滅運動への賛同 ②環境保護の誓い
③原発反対の意思表明 ④傷痍軍人や戦没者への慰霊や追悼

ここで、少し歴史の話になる。

もう、1世紀近く前のことだが、1918年11月11日、第一次世界大戦が終結した。今、シリアで問題になっている化学兵器も多用され、空からの爆撃も、潜水艦による無差別攻撃も行われ、空前の死傷者を出した戦火が消えたのである。

これを記念し、英連邦諸国はもとより、アメリカでもこの終戦記念の休日が制定されている。アメリカでは、この日を Veterans’ Day と呼び、カナダではRemembrance Dayとして勇士を称え、感謝し、悼む日となっている。

そして、その後の第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争はもとより、アフガニスタンやイラクで亡くなられ、犠牲となった兵士たちを追悼する。
したがって、正解は、④。

1915年5月、カナダが帝政ドイツに宣戦布告した翌年のこと。カナダ陸軍軍医少佐ジョン・マックレイは、負傷した兵士たちの手当てに追われていた。あまりにむごい戦場の日々だった。そんな中で、教え子のヘルマー少尉が、爆死した。この時、マックレイは同少尉を埋葬した付近にある一面の赤いケシの花畑を眺めながら、一遍の詩を詠んだのだった。それが同年末、英国の Punch 紙に掲載されたところ、大きな反響を呼び、急速に各国へと広まった。

その詩「In Flanders Fields」は、カナダの20ドル札に印刷されており、今でもカナダを始め各国で Remembrance Day に読まれている。1927年、ウクライア出身のソ連人グリエールが「赤いケシ」の題のバレエ組曲を作曲、今でもこれはよく演奏される。

このように、カナダではもちろん、欧米の人々は Remembrance Day に慰霊と平和を願う象徴として赤いケシの花を胸につけるようになった。あたかも傷つき命を失った兵士たちの血の色でもあるかのようなケシの花である。

政治的ないしは社会的な主張を表わすバッジやリボンは日本では赤い羽根や緑の羽根、そして、北朝鮮から拉致被害者を取り戻そうという青い5辺形、乳がんの早期発見を心がけようというピンクのリボン、ホモ・レズなどの人たちを差別しないようにという虹の模様などなどさまざまある。そうした中で、なぜか、「赤いケシ」は日本では全く普及しない。

慰霊や傷病軍人への感謝と敬意は靖国神社と千鳥ヶ淵にだけ任せておけばいいものだろうか。

ちなみに、世界の国旗にケシの花は全く登場しない。

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