九州場所千秋楽の11月24日、モンゴル出身の横綱・日馬富士(伊勢ケ浜部屋)が、5場所ぶり6度目の優勝を決めた。結びの一番で横綱・白鵬(宮城野部屋)との1敗対決を制し、賜杯を受けた。
ありがとう、白鵬(写真はウィキペディアより)
それはともかく、前日の稀勢の里戦の後の場内の万歳、あれには疑問を感じる。あの時、白鵬の胸に去来したのは、どんな思いだったろう。
負け残りで東溜まりに残った白鵬の表情が、みるみる強張っていく様子がテレビに大写しされた。福岡国際センターに波のようなうねりをともなって、「万歳」が連呼されたのだ。
正直、私は一日本人として情けなくなった。
暴力団の観戦、野球賭博、八百長問題と不祥事が立て続けに起き、日本相撲協会は公益財団法人化どころか、法人解散までいわれ、存亡の危機に立たされた。国技として恥ずかしく、醜悪でさえあった。その時にあって、ただ一人の横綱として責任を一身に負い、大横綱・双葉山の69連勝に迫る63連勝(これも稀勢の里に止められた)という輝かしい成績を続けることで、大相撲の矜持と伝統と文化を守ってくれた。それが白鵬だった。
また、全関取でつくる親睦団体「力士会」は、東日本大震災の被災地に毎年840万円を寄付し続けていることはいまいち世間には知られていないかもしれない。しかし、震災直後にあって一関取(十両以上の力士)に月1万円の寄付を、少なくとも今後10年間続けようと呼びかけたのが、力士会長の白鵬だった。「いつまで現役でいられるか分かりませんが、この国を背負って立つ子供たちのために活躍し続けたい」。ご立派というほかない。
今場所は両横綱を破り、準優勝という好成績をあげた稀勢の里に久々の日本人横綱を期待し、国技館内に1枚もない日本人の優勝額を待望することにおいて、私は人後に落ちないつもりだ。しかし、こんなに大きな貢献をしてくれている白鵬が日本人大関に敗れたからと言って、万歳コールが起こるとは。
九州の相撲ファンのみなさん、少々、前後をわきまえなさ過ぎませんか? お互いに「ありがとう、白鵬」という気持ちと敬意を持ち合いたいものです。