赤十字の標章(赤十字の創設者アンリ・デュナンの祖国であり、創設に大きな協力をしたスイス政府に敬意を表してスイス国旗の色を反対にしたもの)及び赤新月(オスマン・トルコの赤十字への加盟に際し、トルコ国旗の色を逆にしたもの。30カ国で使用)の標章(類似のものを含む)は、「戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する1949年8月12日のジュネーブ条約」(ジュネーブ諸条約の第一条約。傷病者保護条約)第44条により赤十字社・赤新月社(以下、赤十字社とする)と「軍隊およびこれに準ずる組織の医療・衛生部隊の人員・施設資機材」の見に使用する、つまり衛生部隊や赤十字社が独占的に使用することになっており、わが国でも3自衛隊と日本赤十字社のみが使用でき、それ故に戦時にあってもその中立が尊重される標章である。
すなわち、日本国内においては、「赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律」によって、第1条に規定された赤十字、赤新月、赤のライオン及び太陽(1979年のホメイニ師らによるイラン革命までの同国の標章)の標章及び名称の使用は、日本赤十字社(第2条)及びその許可を受けた者(第3条)のみに制限されており、みだりに使用した場合は懲役または罰金刑に処される(第4条)。
なお、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律第157条第2項では、武力攻撃事態等においては、指定行政機関の長又は都道府県知事が、医療機関や医療関係者に赤十字標章等を使用させることができるとされている。
また、商標法第4条第1項第4号においては、赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律第1条の標章及び名称については、商標登録を受けることができないとされている。
ここで大きな問題となるのは、一般の病院、動物病院、薬局・薬店、地図・案内図、テレビ番組、広告などでの誤った使用が後を絶たないことである。日赤では誤用しないように呼び掛けているとはいえ、早く言えばその呼びかけはおざなりというほかない。
赤十字の標章の誤用ないし悪用は街中、どこでも見られるという国はそうはない。それが、わが国では、ほとんど無神経に使用されているのが現実だ。
上の案内図はJR高尾駅に表示されているもの。ここでは赤十字の標章のもとになったスイス国旗の図案が、病院を示すしるしとなっている。スイス人が見たら笑い出すかもしれない。
下の写真は、同じ高尾駅の構内で見たものだが、さすがに赤十字病院ではないことを自覚してか、そこに多少のアレンジをしている。みなさん、もう少し赤十字標章の価値を自覚していいし、赤十字や行政も多少は、個々に注意なり指導なりをしていいのではあるまいか。さもないと条約的法的に怠慢というほかない。