インド国旗の中央に描かれているチャクラ(法の輪)の原型になったのは、古代インド、マウリヤ朝第3代のアショーカ王(阿育王、在位BC268頃~232頃)による第3回仏典結集記念塔のしるしです。この仏典結集はブッダ入滅後200年にあたるアショーカ王により、華氏城(けしじよう、パータリプトラ)で1000人の比丘を集めて行われたと伝えられています。千人結集とも呼ばれます。
インドの国章。
下の文字は「真実のみが勝利する」。
ヴァイシャリーのアショーカ王柱。
これがユネスコ(UNESCO 国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録されているのか、長い間、疑問でしたが、どうやらそうではないようなのです。
世界遺産研究の泰斗でいらっしゃる、 シンクタンクせとうち総合研究機構世界遺産総合研究所の古田陽久先生に失礼ではありますが、先日突然、メールをさしあげ、お尋ねしてみました。
私はユーラシア21研究所の理事長をしている、国旗研究者でございます。この研究所は領土問題を解決して日露関係の抜本的改善を目標に、日露専門家対話などをし、ロシア語でHPを通じて発信しているところでございますが、それとは別に、私は世界の国旗について研究し、関連の著書も40点ほどございます。1964年の東京オリンピック以来、国家的行事ではいつも国旗を担当してまいりました。
その関係で、1つご教示いただきたいことがあり、スラブ研修者名簿で、貴アドレスを知り、突然、メールを差し上げる失礼をお許しください。
それは、インドの国旗の中央にある、チャクラ(法輪)について、これが世界遺産であると以前、駐日大使館で聞いていたのですが、世界遺産のリストで見てもよく解りません。王による第3回仏典結集記念塔に由来するものだということですが、真相をご教示いただければ幸いです。
古田先生からは早速、以下のお返事をいただきました。ありがとうございます。
仏教の四大聖地は、ルンビニ、ブッダガヤ、サールナート、クシナガラであり、そのうち、現在までに世界遺産として登録されているのは、「釈迦生誕地ルンビニ」(ネパール1997年登録)と、「ブッダ・ガヤのマハーボディ寺院の建造物群」(インド2002年登録)の2件のみです。
また、インドの仏教遺跡では、「サーンチーの仏教遺跡」が1989年に登録されています。
ルンビニには、王が建てた石柱があり、ブッダ・ガヤのマハーボディ寺院も、またサーンチーの仏塔も王の建立です。
インド国旗のチャクラ(法輪)については、サールナート出土の石柱の柱頭がモデルとなっているようですね。
ただし、この「法輪」のデザインは、多くの寺院などにも似たような形で使用されており、サーンチーの門のところにも同様の形が見受けられます。
このご質問の、「王による第3回仏典結集の記念塔」が、「サールナート出土の石柱の柱頭」そのものであるならば、現在のところ世界遺産としては登録されていません。
但し、「ウッタラ・プラデシュ州ヴァラナシ、サールナートの古代仏教遺跡」として1998年に世界遺産の暫定リストに記載されていますので、そのうち登録されるかもしれません。
失礼な質問に、かくも早く、かくも詳しくご教示いただけるとは、ただただ感謝申し上げるほかございません。「今後ともよろしくご指導くださいますよう、お願い申し上げます」とお礼のメールを差し上げました。
国旗に登場する世界文化遺産は、カンボジアのアンコールワットと、ジンバブエの「ジンバブエの鳥」、そして「レバノン杉」の3つのようです。これらについては別項でご紹介します。
レバノンの国旗
カンボジアの国旗
ジンバブエの国旗