赤十字と赤新月の他にも共通の標章を採用すべきだという提案は何度もなされました。焦点は、ユダヤ教のイスラエルを国際赤十字にどう迎えるかに尽きました。十字架もイスラムの三日月も受け入れは無理なのです。
新たな標章の採択には国際赤十字加盟国の合意に基づき、1949年のジュネーブ条約の改訂を要します。そこで、「宗教も人種も関係なくみんなに真っ赤な地が流れている。Red Heart(赤いハート)がいい」とか、それでは風の吹かない日には「日の丸」と区別がつかないとか、多年にわたり、さまざまな議論が重ねられました。議論は紛糾し、ようやく2005年12月8日の赤十字国際会議の総会で、宗教的に中立な第三の標章「Red Crystal(レッドクリスタル、赤水晶、赤菱形、赤菱)」を試用できることに決定されました。
この会議の総会は、全会一致を原則としているのですが、異例の投票を実施し正式に承認されたのでした。
ダビデの赤盾社の標章
Red Crystalに内包されたダビデの赤盾社の標章
「Red Crystal」の標章の意味や法的効力は従来の赤十字・赤新月と完全に同一です。また、「この標章は単独で用いる以外に中の白地の部分に独自のマークを入れても構わない」という国際的な標識としては極めて例外的な規則を採択し、これにより、「Red Crystal」の中に「ダビデの赤盾」のマークを入れた標章を用いることで、イスラエルの「タビデの赤盾社」は国際赤十字への加盟が出来たのでした。さらにまた、国内での宗教勢力のバランスから赤十字・赤新月の標章を併用したいと主張しているエリトリア等の国や地域でも、「Red Crystal」の中に赤十字・赤新月両方のマークを入れた標章を使用することで国際赤十字へ加盟できることを期待しているのです。