マルタ騎士団は限りなく国家に近い主権実体である。この騎士団、正式名称は「ロードス及びマルタにおけるエルサレムの聖ヨハネ病院独立騎士修道会」。カトリック系の組織だが、伝統と権威は大変なものだ。
マルタ騎士団の「国旗」
もちろん、国旗もあり、大使館もある。世界各地に設置されている在外公館を通じて各国との外交関係を持っている。騎士団の本部はローマ市内のコンドッティ通り68にあり、建物内はイタリア政府から治外法権を認められている。独自のコインや切手の発行で財政を整え、伝統的に医療などの国際支援・協力活動を行っている。
歴史は古く、千年に近い伝統を誇る。すなわち、第1回十字軍の後、11世紀も末、エルサレムへの巡礼者保護を目的として設立された。キリスト教勢力がパレスチナから駆逐されると、ロードス島に本拠を移したが、同島からは1522年、オスマン帝国のスレイマン(ソロモン)1世による攻撃にさらされ、本拠をマルタ島に移して、以後、マルタ騎士団と呼ばれるようになった。
その後の1798年、今度はフランスのナポレオンがエジプト攻略の過程で島を奪い、騎士団はついに領土を失くしてしまった。英国から独立した現在のマルタ共和国とは別。
マルタ騎士団を国家として承認しているのは、120カ国に及び、内訳は英仏独伊露といったヨーロッパの38カ国、アフリカ35カ国、南北アメリカ29カ国、アジア・オセアニア18カ国で、キリスト教文化圏の国々が多く、イスラム教国との国交はない。
日本やアメリカはこれを国家としての承認をしていない。領土がないからだ。国連では「国連総会にオブザーバーとして参加するために招待を受ける実体あるいは国際組織」として特別の地位を有し、総会場の議長に向かって右側に、パレスチナ、国際赤十字などと並ぶ議席を持つ。こうした組織は、国連に陳情書を提出したり国連総会に参加して意見を述べることを認められて。
パレスチナ自治政府もそうであるが、マルタ騎士団は、ニューヨークの国連ビルに恒常的なオフィスを持っている。
そのマルタ騎士団について、産経新聞(2013年11月17日付)のコラム「イタリア便り」で、坂本鉄男ベテラン専門記者がこんな面白い話を紹介している。
詐欺には人間が持つ「名誉欲」を利用するものもある。最近、イタリアで「マルタ騎士団」の名前をかたり、偽の騎士証明書や勲章をつくって金銭を巻き上げる詐欺団が逮捕された。(同騎士団の沿革に触れた部分は中略)
現在の活動は、国際的な医療活動や社会奉仕が主なものだ。昔は、騎士団の騎士になるには、両親の家系が200年間貴族であることなど厳しい要件があったため、騎士の資格は非常に格式が高かった。
だが、今では大部分の騎士は当然なことながら貴族の出身ではない。ここを詐欺団に利用されたわけである。