伊藤博文「日の丸演説」の日本語訳

伊藤博文は1871(明治4)年1月、先の「日の丸演説」を英語で行いました。実に立派です。その英文は『伊藤博文伝』から先に紹介しましたが、日本語でも読みたいのは当然ですので、ここではfc2.comの訳文を借用してこれを基本に、多少意訳して、紹介させていただきます。


伊藤博文が「日の丸演説」を行ったサンフランシスコのグランドホテル

ようやく版籍奉還を果たしたばかりという明治初期にあって、今読んでも感心する内容なのはまさに「堂々たる日本人・伊藤博文」の面目躍如というべきでありましょう。

ワシントンの日本代表部職員であったCharles Lanmanは『伊藤博文伝』でこれを紹介するに当たり、「歓迎の辞に応えて伊藤副使ははっきりとした声で次の答辞を述べたので、聴衆はその言わんとするところをよく理解できた」と前置きを付しています。

紳士諸君!

私どもが使節として当国に到着して以来、到る所で受けたご懇篤なる接遇、殊に今夕の特別な歓迎レセプション開催してくださったことにつき、ご列席のみなさまとみなさまを通じてサンフランシスコ市民の方々に衷心より厚く御礼を申し上げます。

思うに今夕は、日本において実施された幾多の改革について、その概要をご紹介できる好機かと存じます。というのは私ども以外には、我が国内の状況について正確な知識を持つ日本人はご当地では稀だと思われるからであります。

アメリカ合衆国がその最初の国でありますが、わが国が条約を締結した列強との親交が推進され、相互理解に基づく通商関係は増進しつつあります。

本使節は、天皇陛下の持命により、みなさまと私ども両国民の権利及び利益を保護するのを努めると同時に、将来において内外国民の結合を一層親密になるものと期待いたしておりします。私たちは互いに相互理解の一層の促進に努め、双方の意思はさらに疎通してゆくものと確信いたします。

わが国民は、読む事、聞く事並びに外国において視察することにより、大抵の諸外国に現存する政体、風俗、習慣について、一般的な知識を会得しております。今や外国の慣習やマナーなどは日本全国を通じて理解が進んでおります。今日のわが国の政府及び国民の最も熱烈な希望は、先進諸国の享有する文明の最高点に到達しようということであります。

この目的に鑑み、私どもは陸海軍、科学、教育制度を採用し、わが国には外国貿易の発展に伴って、広範な知識が自由に流入したのであります。我が国における改良は物質的文明においても迅速であり、しかも、国民の精神的向上はさらに大なるものがあるのであります。わが国の最も賢明な人々は、注意深く観察した挙句、この見解に一致して到達しているのであります。わが国は数千年来、専制政治の下に絶対服従させられた間、我が人民は思想の自由を知らずにすごして参りました。

物質的改良に伴って、彼らは長い歳月の間彼らに許されない特権が存在することを知るようになりました。もっともこれに伴う内戦はありましたが、それは一時の出来事に過ぎません。わが国の大名(Daimios)たちは自主的に版籍奉還を行い、その任意的行為は新政府に容れられるところとなり、数百年来強固に継続してきた封建制度は一個の弾丸を放たず、一滴の血を流さないで、一年以内に廃棄させられました。

このような驚くべき結果は政府と国民との協調により成就させられましたが、今やそれぞれ一致して進歩に向った平和的道程を進みつつあります。中世において戦争を経ずして封建制度を打破しえた国がどこかにあったでしょうか。

これらの事績は、日本における精神的進歩が物質的改良を凌駕するものだということを立証しております。また、わが国は女子教育の振興により、将来、今より一層優秀な知能を自然に養っていくことを心から願っております。こうした視点からわが国の少女たちが既に貴国を訪問し、勉学を開始しつつあるのであります。

日本は未だ創造的能力を誇り得とは言えませんが、経験を師範とする文明諸国の歴史を鑑みて、他の長をとり短を避け、それでもって実際的良智を獲得したいと願っております。

一年足らず以前に、私はワシントンを訪問し、貴国の財政制度を精査したことがありますが、その時、貴国の財務省の高官から貴重なご支援をいただきました。そして私は学んだ内容を誠実にわが政府に報告し、その献策の多くは既に採用され、実行に移されたものも少なくありません。現に私の管轄下にある工部省においても、進歩の速さは大いに目を見張るものがあります。

鉄道は帝国の東西両方面に敷設され、通信用の電線は帝国の数百マイルにわたって伸張され、数ヵ月中にほとんど一千マイルに及ぶほどになりました。今や灯台はわが国の沿岸に次々に設置され、造船所もまた活発に稼動しつつあります。これらの施設は総てわが国の文明を助長するものであり、貴国及び他の列強諸国に対し、深く感謝する次第であります。

使節としてもまた個人としても、私どもの最大の希望は、わが愛する国に有益で、その物質的及び知的恒久の進歩発展に貢献すべき材料を持って帰国することでありす。

もとよりわが国民の権利及び利益を保護する義務を負うと同時に、通商を増進することが私どもの役割であり、かつ、これに伴うわが国の生産力の増強を図り、産業の一層大なる活動を助長すべき、磐石の基礎を作ることを望んでおります。

今まさに展開しようとしている太平洋上の新通商時代に参加し、大いに事を為そうとする大きな通商国家の国民として、日本は貴国に対し、心からなる協力を推進してまいりたいと存じます。貴国の最新の発明及びこれまで蓄積された知識の成果に依り、あなた方の祖先が数年を要した事業を私どもは数日で成就させることができるかもしれません。貴重な機会の集中する現在、私どもには一時も暇はありません。故に日本は急激な発展を切に望んでいるのです。

わが国の国旗の中央に点じた赤き丸形は、もはや帝国を封じた封蝋のように見えることはなく、将来は事実上、その本来の意匠である、昇る朝日のように、前方にかつ上方に向う気高い象徴となり、世界の文明諸国に伍して進もうとする象徴となりましょう。

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