WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は「宴たけなわ」。オランダはなぜこんなにも強い? オランダに負けた韓国やメキシコに負けたアメリカはなぜ? イチローとダルビッシュがいない日本はトップ選手を集めてもこの程度なのか?…
たまたま、今夜はアムステルダム・コンセルトヘボーの上席バイオリニスト岩田恵子さんと会食する機会があり、乾杯もそこそこに早速、訊いた。もう数十年、オランダに本拠を置き、世界的に活躍していられる方だ。
「オランダ語で野球ってなんていうの?」
「ん、ん? なんとかボール。何だっけ。でもその言葉を思い出してもオランダ人もまず知らないですよ」。
きょう日本記者クラブでお会いしたさる野球通は、「なぜかオランダ出身の選手でもヤクルトの4番バレンティンや大リーガーがいるから」と仰っていたが、それならヤクルトがセ・リーグでもっと強いはず。
どなたか、明快な答えがあったら、教えていただきたい。とここまで書いたところに、小欄の編集者で、我が若き畏友・伊藤輝くんからこんなメールが届いた。
「オランダの強さですが、選手の大半はカリブ海のオランダ領キュラソー出身で、今回はメジャーリーガー、マイナーの有望株、日本球界の選手(ヤクルトのバレンティン)で構成されているからだと思われます。ですからヨーロッパの国というよりキューバと同じく中南米のチームという感覚ですね。打線がすごいので日本の失点が多いようだと厳しい試合になるかもしれません…。戦力的には優勝してもおかしくないチームだと思いますよ!!」
なるほどなるほど。これは納得です。持つべきものはよき友なり。
ベネズエラの北にあるキュラソーはオランダの海外領土。人口わずか15万足らず。ベネズエラ原油の精製と備蓄で成り立っている。昔から、ラム酒をベースにしたキュラソー酒(キュラソー産オレンジの果皮を用いたリキュール)の特産地として知られていた。今では主都ウィレムシュタッドは世界遺産に登録され、観光業も重要である。
第2次世界大戦時には「キュラソー・ビザ(査証)」で有名になった。この島はユダヤ人に寛容だったオランダの海外領土であった。知恵者がいて、ナチス・ドイツに迫害されたユダヤ人たちが出国するために、キュラソーを渡航先とするビザに思いついた。実際にはこれは出国のための方便であり、「途中経由地」であるアメリカや上海などに居つくユダヤ人が大部分だった。そのあたりを重々承知の上で、人道的見地から、当時、リトアニアのカウナス駐箚日本領事杉原千畝は日本を通過できるビザを発行し続けた。この方便によって、ユダヤ人難民数千人がナチスの手から国外に逃れることができたという史実は、今では広く知られている。この偽装による逃亡のための方便として使われた査証は「キュラソー・ビザ」と呼ばれ、また、杉原のビザで日本に辿り着いた日本人はほとんどいなかった。
何とも不思議な日本との縁ではあるが、これでオランダが勝ち進んだら、この小さな島はまた、日本で新たな1ページを開くかもしれない。