山を描いた国旗⑦ ニカラグア国旗の5つの山

中米ニカラグアの国章は1823年8月21日に、一緒にスペインから独立した中央アメリカ連邦の国章として採用されたのが始まりです。しかし、その後、幾度かの修正を経、現在の国章は1971年に導入されたものです。ニカラグアの領土の東部は大きくカリブ海に面しています。しかし、西部はニカラグア湖には面しているものの、太平洋には直接面してはいません。ですから、国章の2つの海はニカラグアそのものの様子ではなく、中央アメリカ5カ国の様子をまとめて描いたものなのです。


ニカラグアの国旗

ニカラグアの国章

また、五つの火山は中央アメリカの五つの国家の統一と友好を表現しているとされています。ただ、具体的に、どの山がどの国を指すというわけではありません。

中央部分が三角形なのは平等を、虹は平和を象徴すると説明されています。中央の「自由の帽子(フリジア帽 gorro frigio)は古代ローマに起源を持つものですが、近代史ではフランス革命以来自由のシンボルとされ、その直後に独立した中南米諸国の国旗や国章に数多く登場しています。

すなわち、1808年、欧州の大半を制圧したナポレオンは西に転じ、スペインに侵攻しました。そして、ブルボン王朝のフェルナンド7世を廃位して、自らの兄のジョセフ・ボナパルトをスペイン王に据えたのでした。しかし、これをきっかけに両派で戦闘が勃発、国内の後、1820年にスペイン本国でリエゴ革命が起こると、独立の動きが進み、1821年にアグスティン・デ・イトゥルビデを首班として独立を達成しました。翌年、イトゥルビデはこうして中央アメリカをメキシコに併合し、皇帝に即位、メキシコ帝国を宣言しました。しかし、翌23年にイトゥルビデが失脚すると、中央アメリカのチアパスを除いた旧グアテマラ総監領だった地域は改めて独立を宣言し、1824年1月には5州からなる中央アメリカ連邦が成立したのでした。

その後、構成する各地域間の利害、自由主義と保守主義が絡んで武力衝突を繰り返し、1829年に自由主義派が勝利したので、翌年、ホンジュラス出身のフランシスコ・モラサン将軍が大統領に就任しました。


フランシスコ・モラサン大統領

モラサンはグアテマラ大司教の追放や教会財産の没収など、自由主義的な政策を進め、首都を保守主義派の牙城だったグアテマラシティ(グアテマラの首都)から自由主義派の牙城だったサン・サルバドル(エルサルバドルの首都)に遷都したりしましたが、対立は治まらず、1837年にグアテマラで発生したコレラが流行すると、自由主義者による陰謀だという噂を流し、それに共鳴した先住民であるインディオや混血系のメスティーソを動員した保守派が蜂起し、反乱を起こすなどしました。

これがきっかけで内戦となり、1838年11月5日にホンジュラスが連邦を離脱、翌年2月にモラサンが大統領を辞任すると、残った構成国が次々と独立を宣言し、最後に1841年2月にエルサルバドルが独立を宣言し、中米連邦は名実共に終焉しました。


中米連邦の国旗

中米連邦の国章

しかし、連邦崩壊後もこの地域の地域的一体感は強く、19世紀を通じ、さまざまな再統合の努力がなされましたが、どれも長続きはしませんでした。

まず、1842年にフランシスコ・モラサン前中米連邦大統領が再統合を企てましたが、即刻捕らえられ処刑されてしまいました。続いて、1852年の10月から11月まで、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアによる中米連邦が、さらに、60年代には、グアテマラのユスト・バリオス大統領が、他国を軍事的に制圧しての再統合を行おうとしましたが、そのさなかに殺害されてしまいました。3番目の試みは1893年に就任したニカラグアのホセ・サントス・セラヤ大統領でしたが、これまた失敗しました。中米5か国を再統合しようとする4番目のケースは、ホンジュラス、ニカラグア、エルサルバドルによる中米大共和国の結成でした。1896年から3年ほど続いたのでしたが、これの破綻しました。

最後の試みは20世紀初頭、1921年から1922年にかけて行われました。これはエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの3か国による、中米連邦の結成でした。このときは再統合の試みのなかで、唯一、各構成国からの代表による連邦大統領の選挙が行われるまでに至ったのですが、それ以上の発展がないまま消滅しました。

最近では、1960年には、世界の他の域内統合の動きに先駆けて中米共同市場が発足し、注目されました。このように、今でも統合ないしより強力な絆をという動きは強いのです。

しかし、その一方で1969年7月14日から19日にかけてエルサルバドルとホンジュラスとの間ではサッカーの試合をきっかけに戦争まで行ったことがあるほど、それぞれの国のナショナリズムも時に昂揚し、強力なライバルにもなるのです。

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