フォークランド紛争から30年、依然続く対立②


イギリスの国旗

フォークランド諸島周辺の海産物は昔から豊富なうえ、最近では海底油田の試掘権収入が富をもたらしています。両国は95年、その共同開発で一時合意したのですが、ナショナリズムの高まりを受け、2007年、当時のキルチネル大統領は、この合意を破棄。他方、英側は10年に自国の企業に開発を許可したのです。石油採掘が始まれば、島には税収などで100億ドル(約8300億円)以上が転がり込むとの計算もあるようです。

弁護士出身の今のクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル(Cristina Fernández de Kirchner、1953~)は、財政や雇用分野で大きな実績のあった前職のネストル・キルチネル(1950~2010)の妻です。夫の遺業を継ぎ、利権を奪われまいと、ティメルマン外相に活発な外交の展開を指示、外相は3月中旬、英企業による石油開発を「違法行為」と糾弾し、国連の議場で領有権奪還を訴える構えです。

両国の最近の緊張は、欧州の金融危機による財政難で英国は前方展開力が弱まっているのに対し、南米では資源需要や新興国の台頭により海外領土を維持する英国への反発が強まっていることが背景にあるとみられています。

ベネズエラなどからは「英国植民地主義に楯つくアルゼンチンは立派だ」という支持の声もありますが、ブラジルやメキシコなどからは、当面、アルゼンチンを支持はするが、国内事情を転化している面もあり、どこまで支援するかは分からない状況なようです。

報道によれば、実際にそこで暮らしている住民は30年前の紛争時には約1600人だったのですが、今では3千人余。アルゼンチン系島民は多くても5家族と見られています。したがって、島民には英国の支配が続くことを望む声が圧倒的に強く、そうした輿論を背景にキャメロン英首相は「島の将来は島民自身が決めるべきだ」と述べて、アルゼンチン側の主張を一蹴し、3月の訪米ではオバマ大統領の支持も取り付けたとし、外交力沈静化に向かわせようとしているかにも見えます。ただ、南米で反米感情が高まるのを恐れるオバマ米政権は、それほど強く英国の肩を持たず双方に「合意による解決」を求めているうえ、中国がアルゼンチンの領有権を支持していることなどもアルゼンチン側を強気にさせている原因と見られています。その中国について、米海軍大のジェームズ・ホームズ准教授は「(南・東シナ海で領有問題を抱える)中国がフォークランド紛争を研究している」と指摘しているという報道もあります。

両国の軍事力の差が大きいため、大きな武力紛争に発展する可能性は低いと思われますが、2008年の金融危機で国防費削減を強いられた英国では、空母が退役、19年に新たな空母が配備されるまで前方展開力を欠いているのが現状です。マイケル・ジャクソン元英陸軍参謀長は英紙に「今、フォークランドが侵略されても奪還できない」と寄稿しているほどでもあるのです。それでも、英軍は防空能力を高めるため、戦闘機ユーロファイター4機を常駐させ、最新鋭ミサイル駆逐艦を配備して万全を期したのです。アルゼンチンの空軍機は老朽化しており、軍事専門出版社IHSジェーンズのロバート・マンクス氏は「同国には侵略の意思も能力もない」と分析しているそうです。

国際法的にはどちらの国も完全に正当とはいえないとの指摘は学者間でも根強く、解決にはかなりの時間がかかるものと見られています。

ここ数か月の、フォークランド諸島をめぐるイギリスとアルゼンチンの対立の話が長くなりましたが、次回は、紛争から30年というこの機会にアルゼンチンの国旗について復習しましょう。

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