最近は朝日新聞の「天声人語」をあまり読まなくなったが、久々に読み入った。月は国旗にたくさん出てくる。みなさんもぜひ、上の各国国旗の月を見つめながら以下の「天声人語」をご覧ください。
茗荷を食ひすぎた月、潤むような夜に昇った、どこか重たげな月、さわらば雫のような月…国旗の月はなんと表現したらいいのでしょう。
あさっては早世の詩人、中原中也の生まれた日である。名詩があまたある中で、妙に心に残るのは詩集「在りし日の歌」にある「月」の書き出しだ。〈今宵 月は茗荷を食ひ過ぎてゐる……〉。この月はいつの月だろうと、思いめぐらしたことがある▼ミョウガだから夏だろうか。でも、この物憂さは春ではないか。潤むような夜に昇った、どこか重たげな月――。若い日に読んだ懐かしい詩句を、ゆうべが春の満月だと知って胸に浮かべた▼春の月を詠んだ名句もあまただが、一句を引くなら一茶の〈春の月さはらば雫たりぬべし〉か。満月であろう。指で触れれば雫がしたたるようだと。刃物を思わせた冬の冴えから、にじむような肉感を身にまとって、春の月は夜に浮かぶ▼「季節のことば36選」というものを、おととい日本気象協会が発表した。公募で集まった約1600の言葉から選んだといい、賛否を交えて話題を呼びそうだ。「おぼろ月」も入った。湿潤が輪郭をぼやかす図に、人は春を感じるらしい▼そして始まったゴールデンウイークは、立夏と重なり季節を回す。といっても列島は長い。梅、桃、桜などの開花前線はようやく津軽海峡を越えていく。暖地では順に咲く花が北国では一斉に開き、天下の春を集めたような百花繚乱となる▼連休の旅は、夏を迎えに南へ行くか、春を追って北へ向かうか。もちろん帰郷も悪くない。〈これが私の故里だ/さやかに風も吹いてゐる〉。中也の詩に、そんな一節があったっけ。
ちなみに、般財団法人日本気象協会( 繩野 克彦会長)は、去る3月「日本気象協会メセナ」企画として「季節のことば36選」を発表した。これはどう協会内の季節のことば 選考委員会(委員長=新田尚氏元気象庁長官)が選んだ36の言葉で(実際は7月が4つとなって計37個)で次の言葉です。いささか今風に迎合している感じなしとしないが、これはこれで1つの意見として尊重したい。
1月:初詣、寒稽古、雪おろし
2月:節分、バレンタインデー、春一番
3月:ひな祭り、なごり雪、おぼろ月
4月:入学式、花吹雪、春眠
5月:風薫る、鯉のぼり、卯の花
6月:あじさい、梅雨、蛍舞う
7月:蝉しぐれ、ひまわり、入道雲、夏休み
8月:原爆忌、流れ星、朝顔
9月:いわし雲、虫の声、お月見
10月:紅葉前線、秋祭り、冬支度
11月:木枯らし1号、七五三、時雨
12月:冬将軍、クリスマス、除夜の鐘
「おぼろ月」と「お月見」が選ばれたことになんだかほっとした。昔なら日本人の季節感にもっと「月」があったように思う。
もう一度「ちなみに」、「ベンガル語には自分が知っているだけで月を表す言葉が34もある」と国際赤十字で同僚だったハルン・アルラシドくんは言っていた。さすが、アジアで最初のノーベル文学受賞者タゴールの国。(三度目の「ちなみに」、インドとバングラデシュは国歌にそれぞれタゴールの詩を採用している。)